カトリーヌ・メミ パリ私邸

素顔のカトリーヌ・メミ

これまでフランスらしいエレガンスと知性を感じさせる家具を発表してきたカトリーヌ・メミ。多くのメディアは、彼女の家具を「禅的」「ミニマル」と紹介するが、いったい彼女はどんな考えでデザインをしているのだろうか。インタビューでその実像を探ってみた。

インタビュアー:ジョー・スズキ

CATHERINE MEMMI
カトリーヌ・メミ

生粋のパリジェンヌ。1993年、サン・シュルピス通りにCATHERINE MEMMI PARISをオープン。
シンプル、シックでラグジュアリーな世界観は、ニューミニマリズムと称され、日本でも多くのファンを獲得しています。パリを拠点にプロダクトデザインをはじめ、個人邸やアパルトマンなどトータルなインテリアデザインプロデュースを手掛け、フランスのラグジュアリー、洗練された暮らしを提案しています。
日本では2009年、福岡県宗像市のHÔTEL GRÈGES(オテルグレージュ)のインテリアデザインを手掛けて話題に。

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【ジョー・スズキ】メミさんは、フランスのパリご出身でしたね
【カトリーヌ・メミ】そうなんです。パリのリヴ・ゴーシュ(パリ左岸)生まれ、以来サンジェルマン・デプレ界隈で暮らしています。昔から文化人や芸術家が多く住んでいる地域です。
デザイナーの家系に生まれたんですか?
いえ、父は画家です。兄も画家の芸術一家で、アートが身近な環境で育ちました。色彩感覚などの面で大きな影響を受けたように思います。

CATHERINE MEMMI Galerie

どのような経緯でデザイナーになられたのでしょう?
大学を出て、最初は広告代理店でPR・制作の仕事をしていました。そのうち撮影に必要な小物を用意するようになり、スタイリストのような仕事をするようになったんです。これが面白くなり、自身のセレクトショップ「ラ・メゾン・デュース」をオープンさせたのが、インテリアビジネスの始まりです。ちょっとした人気店だったんですよ。
それなのに、何故止めてしまったのですか?
お店が流行ったぶん仕事が忙しくなり、心身共に疲弊してしまったんです。当時は湾岸戦争の時期だったので、ヨーロッパ中に閉塞感がありました。そうした出来事が心理的に影響していたこともあると思います。そこで自分の心が穏やかになるようにと1993年に始めたのが今の「CATHERINE MEMMI PARIS」です。
新しく始めた「CATHERINE MEMMI PARIS」では、どのようなことを目指したのでしょう。
まずは私自身の心が安らぐような家具を作ろうと思いました。それは、過剰な飾りが無いシンプルなデザインで、落ち着いた色使いのものです。黒、グレー、白、ベージュ、こげ茶といった抑えた色にも拘りました。また、麻、木、革といった天然素材を使うことも大切な要素です。加えて質が高く、短期間で消費されることのない、普遍的なものを追求しました。たとえ大勢でなくても、こうした考えに共感してくれる人たちに私のデザインが届いたらと思い、この事業を始めたものです。
これまでメディアはそろってメミさんのことを「ミニマリスト」と紹介してきました。なかには日本の家具デザインの影響を指摘する専門家もいらっしゃいましたが、そうしたスタイルを目指していた訳ではないんですね。
ええ、そういったマーケティング戦略とは無関係に、いつも必要と感じたものをそのままデザインしています。自分が居心地のいいものを求めているうち、東洋的なデザインが自然と湧いてきました。もっとも今も同じスタイルの家具をデザインしている訳ではありません。時代が変われば、私が必要と感じるものも変わります。また、仕事で訪れる街並みからインスピレーションを受けることだってあります。例えば、アールデコを意識した「New York Sofa」はそうした家具のひとつです。
実はずっとお伺いしたかったことがあるんです。カタログにあるような部屋に憧れる人は多いと思います。あのような雰囲気の空間にするにはどのようにしたらよいのでしょう。やはり一式全てをメミさんの家具で揃えないと、難しいのでしょうか。
いい方法がありますよ。まず持っている物の半分を捨てることです。たいてい家の中にあるものの半分以上は不要な物です。それが無くなれば、より心が穏やかになりますよ。フランス人の私からすれば、今の日本の家庭は物が多すぎるように思います。

「BOOKS」ブックシェルフ
「NUAGES」ローテーブル

最近日本で話題になっている「断捨離」にどこか通じるところがありますね。
そうなんですか。最初の海外の仕事は日本だったりと、この国とは不思議な縁がありますね。以前は空間全体を私の家具で揃えるトータルコーディネイトを考えたものですが、最近は必ずしもそうした必要がないと思うようになりました。最新の2012年夏のコレクションは、ひとつひとつの家具が、様々な空間に合うようにデザインしています。
そう言われて拝見すると、今度のコレクションは今までとは雰囲気が違いますね。
幅広い世代を意識し、40年代から60年代のデザインを私なりに解釈してみました。
たしかに曲線のテーブル「NUAGES」は、アメリカのミッドセンチュリーを感じさせるデザインですね。大きさが違う二つのテーブルの組み合わせは、見た目のインパクト以上に機能的な気がします。「BOOKS」はどこか50年~60年頃のフランスのモダニストを思わせるデザインですが、全く印象が違う魅力的な本棚ですね。
ゼブラウッドやアメリカンウォールナットなどで、明るく軽快に仕上げています。今回から新しく使い始めた素材なんですよ。
安楽椅子の『LEONARD』は、バックの高さが印象的ですね。それでいて自分の部屋に持ってきた時、既にある家具ともしっくりくるデザインだと思います。
これまでのコレクションより若干小ぶりなサイズになっているので、多くの人にとってより使いやすいのではないでしょうか。

「LEONARD」パーソナルチェア

こうしてお伺いしていると、随分と変わったのが分かりますね。
私にとっては、大きな挑戦でした。このコレクションを発表できたことを本当に嬉しく思います。今は世界中の景気が良くありませんが、予算が限られれば、人は本当に必要でいいものだけを選ぶはずです。無駄な買い物をしなくていいのはプラスではないでしょうか。
物が少ないのは賛成ですが、あまりにも部屋をシンプルしてしまうとどこか殺風景になりませんか。
私は植物や人間の手の暖かさを感じる器、美術作品を飾っています。特に美術品は大切ですね。選ぶ人の趣味や個性がより表れますから。パリのギャラリー(店舗)やカタログでも、必ず家具と美術品をコーディネートしています。
日本では、美術品を選ぶことを難しく思っている人が多いと思います。何か良いアドバイスはありますか。
そんなに難しく考えないで、自分の心を揺さぶる、家に持って帰りたいものを選べばいいのではないでしょうか。けして高価なものである必要はありません。ただ「インテリアに合うから」と、無難なものを選ぶと、案外つまらない買い物をしてしまう気がします。
ところで、家具は何十年と使うものですが、人々は目先の流行に左右されがちです。特にこのところは、装飾的なものやカラフルな家具が流行っています。シンプルな家具をデザインされるメミさんはどうお考えですか?
ファッションで考えると分かりやすいかもしれません。例えばドルチェ&ガッバーナのような派手なものも売れていますが、シンプルなジル・サンダーも人気が高いですよね。それは将来的にも変わらないのではないでしょうか。家具も同じように思います。
こうしてお話を伺うことで、デザインに対する深い考えがよくわかりました。メミさんは単に家具のデザインをしているだけでなく、家具を通してよりシンプルに、心安らかに生きることを提案しているように感じました。
そう言って頂けると嬉しいですね。2013年は、創業20年に当たります。色々準備を始めていますが、新しいデザインを考えているだけで、毎日が楽しく充実したものに感じられます。是非楽しみにしていてください。

2012年初夏

ジョー・スズキ | 文筆家・写真家
ライフスタイルを中心に、国内外のメディアに寄稿。特に海外デザイナーや海外メーカーの経営者とのインタビューを得意とする。